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将棋の豆知識49〜50 光風社 将棋101話 転用

49寿の門松 -2011.11.01-

 江戸の文芸で、将棋を題材として物語を綴った先駆者は、近松門左衛門である。

 浄瑠璃は、近松の時代に琵琶や扇拍子を伴奏とする「古浄瑠璃」にとって代って、十六世紀に伝えられた三味線を伴奏とする新しい音曲に生れ変った。その新しい浄瑠璃を完成したのは、近松と竹本義太夫である。

 近松は歌舞伎台本として多く時代物を、浄瑠璃としては世話物を書きつづけた。世話物として二十曲目に書いたのが、『山崎与次兵衛寿の門松』。寛文年間に嬌名をうたわれた名妓吾妻に材をとり、享保三年(一七一八)正月二日に初演されている。作者、六十六歳である。

 「中之巻」に見える浄閑・治部右衛門の相舅同士が将棋にことよせての論判は圧巻で、のちに、式亭三馬は、これに範を得て『浮世風呂』以下の佳作をものしたと伝えられる。

 ---我らが吝いは知れたこと。座敷牢へ入らうか都詰になろうが。金銀は手放さぬ。歩あしらひで見知らせう。此方も歩をもつて歩に首を提げられるが悔はないか。溝はぬ溝はぬ。先づ逃げてゐませう。コレ其の内に香車の鑓を以て鑓玉に上げられるが。それでも金銀は出すまいか。勿体ないこと鑓玉に上げられうが。獄門に上らうが。手前の金銀は放さぬと。地色両馬強き欲の皮側でお菊は気をもみて。つつむ涙も手見せ禁フシ命手詰と見えにけり・・・。

 「都詰」とは、盤面「5五」の中央で玉を詰めることをいう。実践では珍しいが、詰将棋には、この趣向を用いる例が多い。

 「両馬強き」とは、二枚落のことをいう。江戸時代は、四段のことは「強片馬」、三段のことは「並片馬」と称した。ここでは、ただ強いという修辞に用いてある。

 「手見せ禁」とは、手駒(持駒)を隠して相手に見せないことをいう。この場合は、将棋の用語にことよせて、涙を手で隠して見せないことを「つつむ涙も手見せ禁」と表現した。心憎いばかりの用法である。

 この言葉を『寿の門松』で初めて私は知った。その後、江戸時代の各種の文芸でどのように用いられているか、注意して見た。

 曲亭馬琴は、享和元年(一八〇一)刊の黄表紙『春駒象棊行路』で、「これ王手、どうだ胆がつぶれよう手見禁だにヨ」と用いてある。馬琴は、ときおり、将棋用語をねじまげて使う。これも、その例であろう。

 滑稽本、多羅福孫左衛門の『無弾砂子』(天明六年刊)には、「手見金山竜王院境内にて・・・」と、もじって用いる。

 読本、山東京伝の『双蝶記』には、「湊川にむだ駒を打散らし、武蔵野の手見禁に・・・」と用いてある。

 いずれにしても、「手見禁」なる用語は、江戸後期の文芸作品を最後に、かき消えている。明治の世では、すでに死語となっていたものらしい。

 「手詰」は、いまでいう「手詰り」の意ではなく、単なる詰という。

 近松の『寿の門松』は、将棋用語を駆使して、みごとな作品に創り上げて見せた。あの三馬の才を以てしても、近松の作品を越えることはできなかった。

 追随者の宿命というものであろうか。

50将棋と詩人 -2011.12.01-

 外国の文芸作品にも、しばしば将棋が登場する。むろん、西洋将棋(チェス)である。

 昔から諸外国では、家庭でチェスを愉しむ習慣がある。駒は取捨てで単純なゲームであるから、老若男女は手軽に勝負を戦わせる。だから、日本文学よりも、より多く文学作品に姿を見せるようだ。

 いま思い出すだけでも、メリメの『トレドの真珠』、トルストイの『戦争と平和』、ボウの『メルツェルの将棋指し』など。絵画では、立体派のジャン・グリに『将棋盤のある静物』という作品がある。画集で見た。

 散文にくらべると、さすがに、詩の分野ではすくないようだ。それでも、私の三つの詩に接することを得た。

 白楽天の名で親しまれる唐の大衆詩人、白居易は、八世紀から九世紀はじめにかけて活躍した。数多い作品のなかに、「池上二絶」と題する詩がある。

 山僧 棊に対して座す
 局上 竹陰清し
 竹に映じて人の見る無く
 時に聞く子を下す声

 「山寺の和尚が盤に向うと、盤上に落ちる竹の葉かげは清らか。竹におおわれて見る人とてなく、時に聞えるのは、碁石をくだす音だけ」というほどの意味である。

 残念ながら、この「棊に対し」は、将棋でなく、碁の対局である。訳註者の高木正一氏も、碁の対局とする。

 白居易の時代、むろん、中国には将棋は誕生していた。林語堂『則天武后』を訳された小沼丹氏は、白居易の出生よりもさらに古いその物語のなかで、将棋という言葉を使っている。

 中国の将棋の歴史は古いが、誕生を誌す正確な記録はないらしい。北周の武帝が五七〇年代に将棋を創ったという伝えがある。八世紀ごろ、日本に伝えたという話も残っている。いずれの国でも、遠い昔の将棋史を解明することは困難をきわめるようである。

 昼と夜の将棋盤の上で”彼”は無気力な勝負を戦はせる

 あちこちと進み王手し殺しひとつまたひとつ箱に横はる

 上は、ペルシャの古い抒情詩「ルバイヤート」の一節。新聞記者時代の先輩であった秋沢三郎氏に教わり、英文から上のように訳して戴いた。

 小さなお化けがすちーむ管を通る
 どの時計もねぢを捲いてない
 早く生れ過ぎた蝶が一匹
 西洋将棋盤の上へ舞い下りる

 上は、ドイツの詩人リンゲルネッツの「長閑なる一時」という詩の一章である。古い蔵書のなかからみつけ出し、板倉鞆音氏の訳をそのまま借用した。

 チェスは盤も駒も色彩が鮮かで、見た目に美しい。絵や詩のモチーフとして、彼等には心に迫りくるものがあるのだろう。

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